双頭の仔アルパカ
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泣きぼくろが色っぽいけど、まだ仔アルパカ。
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標高4400メートルに広がる大平原。 アルパカは、こういうところに住んでいます。
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日本のテレビCMの、ちまちまとした情景の中の、真っ白に洗い上げたアルパカちゃん。 …もちろん、それなりにかわいいです。
でもせっかくなら、広大なアンデスに生きるアルパカたちの姿も、ぜひご覧頂きたいなと思い、手持ちの写真を集めてみました。
ペルーに住んでいても、必ずしも年中アルパカを見かけるわけではありませんが、ひとたびアンデス旅行に出かければ、ほうぼうで出会います。 標高3800メートル以上の高地が、アルパカたちの本来の世界です。
何時間も人気のない大地をドライブしたあと、大きな大きな景色の中で、人なつっこいアルパカたちに出会うと、なんとなくほっとした気持ちになります。
アルパカやリャマは、妙に物見高いところのある動物で、長い首をもっと伸ばすようにして、熱心にこちらを見つめます。 それはとてもかわいい姿です。でもその一方で、犬猫のようには、意志の疎通はできそうにないな…と感じさせる、適度な不気味さもあります。
また、遠くから眺めるぶんには心配ありませんが、かわいいアルパカとて、やはりラクダ科動物… つまり反芻動物です。 必殺つば吐きには、じゅうぶん警戒しつつ、向かい会う必要があります。 (追記:la cosmopolitaさんが思い出させてくださいました、アルパカやリャマは、「げっぷ」にも要注意です!)
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ペルー南部・ワンカベリカとアヤクーチョとの県境、アパチェタ峠(標高4460メートル)近くの眺め。 この標高にして、この豊かな緑… だからこそアンデス高地では、アルパカの放牧ができるのです。
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さっそくアルパカ発見。 染色に都合がいいため、いちばん多く飼われているのは白アルパカですが、本来はこんなふうに色とりどりです。 白、クリーム色から薄茶、焦げ茶、灰色に黒と、22もの色があるそうです。
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まだ幼い仔アルパカ。
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アルパカは野生動物ではありません。 4000年ほど前に、アンデスの人々が野生のラクダ科動物を家畜化した結果、今のような色とりどりの動物となったそうです。
アルパカたちは、昼間はこうして、思い思いの場所で草を食んでいますが、夕方になると牧童と犬によって集められ、安全な囲いに戻されます。
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アルパカは、家畜とはいえ、やはりこういう大自然の中にいてこそ、だと思います。 表情はあくまでラクダだし、都会的な芸のある動物でもないですから、白犬ほどにはブレークしないんじゃないかな〜? ああいう作り声で、なにか喋るわけでもないですしねえ。
ただ、雨季(繁殖期)のアルパカは、ムームームー…と甘い声で歌をうたい(ほんとです!)、それはとても可憐な姿です。
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アルパカの様子を見守る少年。
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全部アルパカ。
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なぜかアンデスというと、「寒風吹きすさぶ、荒涼たる大地」というのが、ほとんど決まり文句となっていますよね。
でもたぶんそれは、ほとんどの方が、すべてが枯れ果てる乾季の7月・8月に、ペルー観光旅行にみえるせいでしょう。 (もちろん7月・8月のアンデスにも、雨季とは別の美しさ ―こわいような星空や金色の平原、みごとな雪山などなど― があるわけですが)。
雨季のアンデスは、こうして一面、緑に染まります。 昼間はさんさんと日が射して、標高4000メートル「程度」なら、じゅうぶん暖かく感じます。
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斜面でくつろぐ母子アルパカ。 緑が多い、つまり食べ物が多い雨季(12〜3月ごろ)が、アルパカの繁殖期です。
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アルパカは一頭ずつ生まれるので、この二頭、きょうだいではありえませんが、きっと同じころに生まれたのでしょうね。 やはり同サイズだと気も合うらしく、仲良さそうに連れ立って、そのへんで跳ねていました。
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アンデス高地の牧民の家。
家のすぐそばに、石を積んだ、りっぱなアルパカの囲いがあります。 大きな囲いは、毎晩アルパカたちが眠る場所で、小さな丸い囲いのほうは、毛を刈ったり、繁殖儀礼を行うときに使うそうです。
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さて、こちらはリャマ君です→
アルパカとリャマは、どちらもラクダ科の家畜です。 たくさん見れば、自然と見分けがつくようになりますが、ざっとポイントをご説明すると…
☆大きくて筋っぽくて、耳が長くてアンテナめいているのがリャマ。 全体になんとなく、男性的な印象。(つまり、より沙漠のラクダに近い外見) 首を入れない、背中までの高さ:平均115cm 体重:80〜110s
☆リャマより小ぶりで丸々としていて、ふさふさ前髪をたらし、おしりに魅力があるのがアルパカ。 全体になんとなく、女性的な印象。(つまり、より羊に近い外見) 背中までの高さ:平均90p 体重:平均80s
ただ混血もよくいて(リャマ♂・アルパカ♀の仔はhuarizo、アルパカ♂・リャマ♀の仔はmishtiと呼ばれます)、どう眺めても判断がつかないことも、しばしばです。 アルパカがリャマとまざってしまうと、毛の商品価値が落ちるため、さいきんは間違いが起きないよう、きちっと分けて飼うことが多いようですが。
商品としてはアルパカ毛が有名ですが、リャマも小さいうちは毛質がやわらかいので、ベイビーアルパカのみならず、「ベイビーリャマ・セーター」なんていうのも、お土産屋さんで見かけます。
アンデスの山奥で作られている、アルパカのさまざまな毛色をそのまま生かしたポンチョや毛布も、風情があってとても良いものです。 当然ながら、いくら洗ったところで色落ちの心配もありません。
リャマは昔から荷駄獣として利用され、その習慣は今もアンデスに残っています。 また毛はもちろん、皮や骨もさまざまに利用でき、肉は干して保存食とします。 (なので私は勝手に、「アンデスの鮭」と呼んでます)
アルパカは主に、毛の採取のために飼われてきましたが、さいきん食肉としても注目されています。 料理しやすい、ごく上品な赤身肉で、しかもコレステロールがとても低いのですよね。 あのかわいい顔を思い出してしまうと、ちょっと食べられませんが、でも確かにおいしいお肉です。合掌。
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おしゃれな迷彩カラーのリャマ君。
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↑インカ期のリャマの囲いのあと。 アレキーパ県、プエルト・インカにて (ナスカの南約150キロ地点)
かつてプエルト・インカ(「インカの港」の意)では、魚を塩漬けにし、クスコなどアンデス山中の支配者たちのもとへ、送り出していたそうです。 この石囲いは、塩漬け魚の運び手の、たくさんのリャマたちの休憩場所だったのでしょう。
ここに写っているだけでも、大小四つの囲いがあります。(水色の矢印のところ) 今ではリャマは、アルパカ同様、ふつうは標高3800メートル以上のところに住んでいますが(観光業に従事するリャマ君は除く)、かつては海岸部でもたくさん飼われていたそうです。その証拠に、ペルーの海辺の遺跡からは、よくリャマの骨や皮が出土します。
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雪山の前でポーズをとる、ぶちリャマ君。 実に思い切った模様のリャマが多いので、眺めるのが楽しいです。
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お母さん似の、かわいい色黒の仔リャマ。 お母さんのリボンもおしゃれ。
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水たまりの幅を目測する、ガングロ(死語の世界)アルパカ。 このあと軽々と飛び越えました。
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さてこちらは、ペルー南部アヤクーチョのお祭に参加せんと、盛装して広場に乗り込むリャマたち。
首には大きなベルがついていて、リャマの早い足取りにあわせ、カランコロンと華やかに鳴ります。 聖週間(3月〜4月に巡ってくる移動祝祭日)の、昔ながらの慣わしです。
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リャマは荷駄獣とはいえ、運べるのは、一頭につきせいぜい45キロまでだとか。 それも左右バランスよく、振り分け荷物にしなくてはなりません。 そこはそれラクダ科動物ですから、ひとたびご機嫌を損ねると、座り込んで動かなくなってしまうそうです。 だから飼い主も、逆効果になる手荒なまねは、決してしないようです。
このリャマ君は、まだ若いからでしょうか、おしるし程度の荷しか載せていません。お祭には参加することに意義がある!…というとこですね。
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愛想よく記念撮影に応じるリャマ。 実のところ、ヒトにとっては、なかなかリスキーな行為なのですが……
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広場で荷物をおろしてもらって、一息つくリャマたち。 持ってきたのはレタマ(エニシダ)の枝で、「復活の主日」(復活祭)の前夜、これで焚き火をするのです。
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同じラクダ科動物でも、アルパカは「つぶらな瞳…」という印象なのに、リャマだと「ちょっとあぶない眼差し…」と感じてしまうのは、なぜでしょう???
リャマとアルパカは、実際のところ、ほとんど同じ顔立ちと思うのですが、たぶん前髪の有無が、印象を大きく左右してるのですね。やはり髪型って大切だわ…
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ややっ、これはもっとあぶないかも! 薄青の瞳のリャマ君。 グリンゴ、あるいはサルコ(どちらも「青い目の白人」の意)と呼ばれています。
注意してみていると、リャマやアルパカの瞳の色は、実にさまざまです。 こういう薄色の場合、気の毒に、なみだ目になりがちだそうです。サングラスでもかけてやりたいですね。
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聖週間が終り、アヤクーチョからリマまで車で戻りました。
標高4000メートル以上の地点が、何時間も続くので、NHKで紹介されて有名になった珍しいプーヤ・ライモンディなぞも、道端にタンポポのごとくさりげなく、あちこちに生えています。
写真では小さく見えますが、下の葉の部分が3メートル、その上の花茎は10メートルまで育つこともあるという、巨大な植物です。
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4460メートルの峠を越えると、雪景色でした。
赤道にほど近いペルー・アンデスでは、4000メートル「程度」のところでは、雪はそう多くは降りません。また降ったとしても、風に飛ばされてしまうので、積もることもあまりありません。
したがって、チェーンなど最初から持っていませんから、用心しいしい徐行してゆくと、前方にすばらしい光景が!!↓
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おお、これは!! 山奥でないとなかなかお目にかかれない、リャマ・アルパカ・羊の混成部隊です! (山羊もまざっていたかも)
あまりの嬉しさに、おろおろしながら撮ったので、ちょっとブレてますね。 リャマ・アルパカと羊は、本来まったく無縁の動物なのに、ふしぎと折り合いが良いそうです。
当地では長いこと、染めやすい純白の毛を持つアルパカだけが、選別され、殖やされてきました。 そのため、アンデスを旅行していちばん多く見かけるのは、白アルパカだけの群れです。 (近年、アルパカの天然22色への需要も、だんだん増えてきているようではありますが)
また、もしリャマと混血すると、毛の質が落ちるため(毛がぐっと太くなってしまうそうです)、別々に飼うことが勧められています。 でも、こういう昔ながら(*)の飼い方は、眺めるだけのこちらにとっては、はるかに楽しいですね。
(*:この場合、「昔」といっても、植民地時代までしか遡りません。 インカ期およびそれ以前には、アルパカとリャマはちゃんと分けて飼育されていたようです。 そのせっかくのシステムをぶちこわし、ペルーアンデスのアルパカの毛質を、全体的に落とす結果を招いたのは、例によって例のごとく、侵入してきたスペイン人たちの仕業だったようです…)
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凍てつく薄い空気の中、背にうっすら雪をのせ、でも涼しい顔して、黙々と歩いてゆきます。 全員、上等なコートを着ていて、なによりです!
手前はリャマで、奥のほうには、畳イワシ状態のアルパカたちがいます。 …な、なんだか、大勢の視線を感じます〜
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リャマ組。
牧民たちは、リャマやアルパカの色模様を、たとえば靴下やえりまきに見立てて、上手に記憶するので、自分の動物たちのことは、一頭残らず見分けることができるそうです。
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こちらはアルパカ組。
うしろからやってくるのは、アルパカのポンチョを着込み、白馬にまたがった、かっこいいお父さん。 笑いながら、大きな声で、「写真撮れ撮れ、もっと撮れ!」と私に言いました。
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道を渡るアルパカ・リャマ・羊の混成部隊。
有能な犬に導かれ、あわてず騒がず渡るので、なかなか終りそうにありません。
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…やっと終りが見えてきました。
あたりの空気は、冷え冷えと澄みきっていました。零度近かったろうと思います。 震えるほど寒いのに、じんわりと温かな気持ちになる情景でした。
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